MIYUKI Journal

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Vol.10 MIYUKI CRAFTS SUITS - 大阪店について –

MIYUKI CRAFTS SUITS(以下MCS)大阪店の上林店長と、MCS ディレクター富山が、対談をおこないました。

富山:今日は、大阪店の店長である上林さんに色々お話を伺います。お店の紹介含め、色々とお話を聞いていきたいと思います。今日はよろしくお願いします。

上林:よろしくお願いします。

富山:MCS は、ビジネスマンだけでなく、男性女性問わずさまざまな方に向けてオーダースーツの素晴らしさをお届けするというコンセプトストアです。

札幌はアットホームなお店作りをしていたり、東京は地方から出張のお客さまもご来店されたりと、幅広い客層に合わせて展開しております。

大阪は唯一の工房併設の店舗ということで、どちらかというと「ものづくり」を中心としたお店になっていると思います。そのあたりも含めて、大阪店の特徴やコンセプト、狙いなどを教えていただきたいと思います。

上林:大阪店のある本町は心斎橋の隣の駅で、とても人通りが多いビジネス街です。ビジネスホテルも多いので、東京と同じく出張で来られる方も多いですし、観光客もたくさんいらっしゃいます。

富山:この辺りは人が多いイメージがありますよね。

上林:人通り多いですよね。駅からお店までは1分で着きます。

富山:アクセスもいいですよね。ビジネス街なので平日は人通りが多いですが、土曜日はいかがですか。

上林:土曜日は観光客のほかに大阪郊外の方がよくショッピングをされています。

富山:客層が平日と土曜日では全然違うんですね。

上林:がらっと変わりますね。

富山:上林さんはMCS に来てどのくらい経ちますか?

上林:1年半以上経ちます。

富山:そうですか。上林さんのいで立ちからドレスのクラシックなものがお好きだというのがすぐ伝わってきます。これまでの経歴など教えていただけますか?

上林:20歳から2年間、ビスポークの職人のところで修業をして、パターンから採寸縫製まで全部教えていただきました。その後、ご縁があり御幸毛織に入社することになりました。

4年ほど百貨店に勤務して多くのお客さまの採寸をさせていただいた後、大阪店へ移りました。

富山:では、御幸毛織が最初の就職先ですか?

上林:はい。2年間の修行期間はフリーターでした。今、26歳になりますので、入社してからかれこれ4年ですね。

富山:札幌も東京もそれぞれの特徴を生かしたお店で客層も異なります。大阪のお客様は、どういった方が多くいらっしゃいますか?

上林:この本町では70代~80代の方もいらっしゃいます。

富山:70代、80代ですか!

上林:この辺りが以前は生地の問屋街だったこともあり。「御幸」の名前を知ってくださっている方が今でも多くいらっしゃいます。ですので、御幸の全盛期をご存じの70代〜80代の方々にお越しいただけることが多いですね。

富山:そうですか。でも一般的な70代や80代の方は普段スーツはあまり着ないですよね。

上林:外食時などのおしゃれ着としてジャケットや少し派手なスーツなどを作りにいらっしゃいます。

富山:御幸の名前を知っている世代というのは時間とともに減少しつつあります。新しいお客様にも提案していかなければならないのですが、30代や40代の次世代のお客様は着実に増えてきているのでしょうか?

上林:そうですね。次世代のお客様も増えてきていると感じています。国産のオーダー生地はそんなに多くはない中で、ひと通りインポートのものを作り終わった後に「やはり国産のものがいい」と言っていただいています。

国産で作れるオーダースーツと言えば「御幸」をパッと思いついていただけるような、そんな立ち位置にしていきたいと思います。

富山:いいですね。次世代のご新規のお客様はどういうところに魅力を感じてご来店されていると思いますか。

上林:最近は店名を「サローネ・パルテンツァ」から「ミユキ クラフツ・スーツ」に変えたこともあり、国産生地のオーダースーツの存在を知らなかったという方や、とりあえず御幸の生地を見てみたいとご来店いただく方も多いですね。

後は既存のオーダースーツ店で満足していないという方によると、当社は同価格帯でフィッティングや縫製などのものづくりがしっかりしているという点で信用していただいていることも多いです。

富山:国産の生地を見たいということと、高い品質のものを求めているということですね。

御幸らしさが出る部分ですよね。国産の生地に興味があるというのはとても嬉しいですね。

上林:そうですね、嬉しいです。

富山:大阪店はMCSでも唯一工房を併設していますよね。店内から工房の中が見えるということで、販売しているプロダクトの中身が見られるというなかなか珍しいタイプのお店だと思います。

店舗に工房を併設していることで提供できる特別な価値や、独自のサービスなどはありますか?

上林:アトリエも併設しているということで、ボタン付けひとつ取ってもそうですけど、工場で実際に使っている糸を使ってその場で付けたり、パンツプレスもきちんとしたプレス機械を使って作業することができます。

富山:いいですね。バキュームのプレス機械ですか?

上林:バキュームのプレス機械です。普通のスチームアイロンではできないぱりっとした仕上がりになります。

富山:工業用のアイロンなので、プレスがしっかり効きますね。

上林:ご来店いただいた時に工房の中の様子も見ていただくと、より安心してお作りいただけるかなと思っています。

富山:作っている工程が見えることで品質の裏付けにもなりますよね。

上林:実際にちゃんと国産で作っているのを実感していただけるかと思います。

あとは工場の動きも把握しやすいので、あまり無理な納期をお願いすることもなく円滑に連携できていると思います。

富山:製品の生産と販売が一体になって運営できているというのは理想ですよね。製販一体の運営というのはなかなか普通のオーダーショップではないですし、上林さん自身も縫えるのは強みかなと思います。

上林:縫製の面から見て改善点があればすぐにご提案もできます。

例えば、補正一つとっても、型紙を意識した理にかなった補正を入れることが可能です。

富山:何でも補正を入れるのではなくということですね?

上林:スーツが体にぴったりつけばいいというものではないと思っていますので、スーツ自体が格好良く、バランスを崩さないようにというのを意識していますね。

富山:大事ですよね。取ってはいけないシワとかもありますしね。

上林:シワを取ることが正しいとされている方もいらっしゃいますが、そうではないと思っています。

富山:着用した時の運動量なども考えられますよね。

上林:着た時に格好いいかどうかって大事ですよね。

富山:大事ですよね。ご自身で縫えるからこそ、補正と見た目のバランス感覚をお持ちなのかなと思います。

上林:仕立て映えするかどうかというのは、実際に縫って肌で感じているので、そうした観点を踏まえたご提案ができます。

富山:仕立て映えも含めた上林さんのお勧めの生地はありますか?

上林:ナポレナのネイビーサージですね。原料はスーパー180’Sを使っています。

富山:出ました!贅沢な原料ですね。

上林:はい。もちろん光沢とツヤ感、ぬめり感もありますが、しっかりと弾力もあります。

富山:フォープライだから、しっかり打ち込んで太く引いていますね。

上林:襟返り一つとってもそうですけど、いわゆる色っぽさが出るというか。

富山:色っぽさですか。

上林:そういうのが好きです。

富山:贅沢な原料を、敢えてやや太引きに糸を引いているのが御幸らしいですね。モッチリ感というのがありますよね。

上林:イタリア製やイギリス製でも簡単に出せない生地ではないかなと思います。

富山:他にお勧めはありますか。

上林:あとは色でいうとブライテストのグレーがお勧めですね。この色がすごく好きです。

これがそうなんですけど。

富山:これはトップミックスなのですごくグレーの深みがありますね。

上林:普通のグレーではないなと思っています。ブルーグレーでもなく、難しい表現ですね。

富山:5色の綿を混ぜて作っているグレーなので一言で表現するのが難しいですね。普通の先染めの1色のグレーではないですから。

上林:これもそうですけど、贅沢な使い方をした生地かなと思います。

これがすごく好きでお客様にもおすすめしています。

富山:光沢もありますしね。組織も少し特殊な綾織なので、すごく光を反射するんです。生地に立体感が出ますよね。これは僕も好きです。御幸としても定番でやっていきたいので、色の数は増やしたいと思っています。

普通はなかなか分からないんですけれども、ちょっとそういう特徴があります。

上林:光の下でとても綺麗に見えます。この2つが仕立て映えするのでおすすめですね。

富山:ありがとうございます。

富山:このお店は札幌の1年前にオープンして、もうすぐ8年ですよね。今までずっと前任者の方がいて、今年から上林さんが一人で引き継いでいらっしゃいます。人が変わればいろいろ形も変わっていくので、今後力を入れていきたいことや、ご自身でやっていきたいことがあれば教えていただけますか?

上林:今は私一人で運営しているので、お客様にご迷惑をかけることもあるのですが、来ていただいたお客さまにはすごくいいものを届けたいという気持ちでいます。

その一つとして、特にご新規の方に仮縫い付きのオーダーをお勧めしていて、150% の出来栄えを目指しています。もちろん仮縫いなしのオーダーでも100% ぴったりなものをお作りするのですが、さらに高品質なものを目指していく上で、仮縫いがあるとお客様もイメージが湧きやすくて安心できますよね。少しお時間はかかってしまうのですが、150% のいいものをお渡しできるかなと思います。

既存のお客様も含めてお勧めしたいのが「7分仕立て」というサービスです。補助だけではなくて、私が3割、縫製工場が7割で仕立てるというサービスを前任者から引き継いでやっています。今後、マスターピースの形のリニューアルを考えていますので、その辺りもご興味持っていただけたらなと思います。

富山:最大の特徴でもあるところですね。

上林:そうですね(笑)。自分で手縫いするのも一番大事なところですね。日本では特に前肩や前振りというところもぴったりフィットできるかなと思います。

1度着てもらったら多分戻れないですね。

富山:そうでしょうね。

工場が7割縫製し、上林さんなどの職人さんが3割縫製するプロダクトですが、具体的にどの部分が上林さんの手縫いのパートになるのでしょうか。

上林:上衿と肩、袖付けが手縫いのメインとなってきます。あとは周りのステッチや、ボタンホールもハンドでさせていただいております。

手で縫うからいいというわけではなく、手で調節するからいいという点が肝になっています。

縫い目はもちろんミシンの方が綺麗で見た目は良いのですが、肩のいせ量や上衿のゴージラインなどの、大きくカーブしたラインというのも手で調節する必要があります。この調節はなかなか工場ではできないので、お客さまにもご満足いただけるかと思います。

富山:これは特徴的なプロダクトですね。

上林:そうですね、大阪店限定になります。後ろにアトリエがあるからこそできることかなと思っています。

富山:確かにそうですね、お勧めしてやっていきたいですね。

上林:ゴージラインを意識していて、カーブの角度をどれだけ色っぽく書けるかというのも大事ですね。この角度については前任者からも言われていました。

あとは、肩の線もそうなんですけど、いせ量が基本的に2.0です。

富山:2センチも入る。それはすごいですね。通常の量の倍以上ですね。

上林:工場では基本的に入らないと言われていますけれど、これも手縫いで時間を掛けてアイロンをかけるので入りますね。

大体7mmぐらいが普通です。それでも十分肩は前には来るんですけど、それ以上にできます。

あと、前に来るだけじゃなくて、この膨らみをアイロンで寄せるので、肩甲骨の高さの膨らみにもなってくるわけです。

前肩っていうのは肩が前にあるだけじゃなくて、大体の方が肩甲骨が出ているんです。だからここだけを意識するのではなくて、こちらの肩甲骨も意識して作っています。

富山:前肩というのは、ここがぶつかるというところではあるんですけれども、構造的にここの肩甲骨が結構高い人が多いので、そこから引っ張られて当たっていきますよね。

上林:距離がすごく大事ですね。

富山:そのためにいせ量を増やして肩甲骨に高さを出してくるというイメージですね。

富山:上林さんの思う「かっこいい」とはどのようにお考えですか?

上林:私が思うかっこいいというのは「女性にモテる」とかではなくて「男性にモテる」ことだと思いますね。

富山:かっこいいにも色々あると思うんですよね。それぞれの解釈はあると思うんですが、元々スーツの発祥は貴族階級から始まっている洋服ですから、考え方としては抑圧する服なんですよね。アンダーステートメントと言われているんですけども、紳士は質素に隠すということを、かっこよさとしているんですよ。なので、紳士服というのは基本的には目立ってはいけないということですね。ジェントルマン達はそういう矜持を持っている訳です。

英国の衣服改革宣言を機に、上下揃いの生地で服を仕立てるということから始まり、シーンに合わせてポケットチーフを使ったり、花を刺したりしてアレンジするところから来てるんですね。

つまり、元々は質素であるべきということから始まっているので、本当のかっこよさというのはトリックのない普通の状態が一番良しとされるという考え方もあります。

上林:そうですね。僕も師匠から教わっているのは「スーツは額縁」ということです。着ている本人が絵だとすると、額縁が安っぽかったらやはり絵も安っぽく見える。逆に、高そうな綺麗な額縁だったら絵もすごく高そうに見えるし。

パッと見で中身の絵はそんなに皆さんが分かるようなものじゃないですよね。

人間もパッと見で中身がどんな人かは分からないので。やはり額縁をしっかりしていると、高そうに見えるので額縁をイメージして服を着なさいという風に教わりました。

富山:良いですね。

上林:額縁がシンプルなのも絵を目立たせるために大事だし、額縁にちょっとアクセントがあってもオシャレですよね。それが先程言ったポケットチーフだとかアクセサリーやネクタイなのかなと思います。

額縁はどれだけその絵を引き立てるかでしかないじゃないですか。スーツはその役割に似ているのかなと思います。スーツを作って終わりではないので、その人がスーツを着て仕事をして食事会に行って何か起こるための道具の一つでしかない。

富山:そうですね。

上林:いかにその人にプラスになるかというのが大事かなと思います。

富山:はい。では今後も、お客様の良さを引き立てる額縁を意識した、喜んでいただけるスーツのご提案を続けてください。ありがとうございました!

上林:ありがとうございました。

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