MIYUKI Journal

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Vol.4「MIYUKI CRAFTS SUITS」について(後編)         - ハウスカットのストーリー –

MIYUKI CRAFTS SUITS について深掘りしたお話をシリーズでお送りしています。

中編では、MIYUKI CRAFTS SUITS(以下MCS)オリジナルパターンの「ハウスカット」について、どんな特徴があるのか?など、 執行役員 開発部部長 兼モデリストグループ グループ長の金子さん、MCS ディレクターの富山さん、そして広報グループ小森さんの3人で対談しました。

後編では、ハウスカットがどのように生まれたのか、という作り手の想いのストーリーを深掘りした対談を行いました。

小森:そもそもハウスカットはどのようにして生み出されたのですか?誕生秘話について教えてください。

金子:はい。ちょっと話はさかのぼるんですけど、私が御幸毛織に入社した2018 年は、社長の肝入りで企業リブランディングに取り組んでいたんです。当時「サローネ・パルテンツァ」という店名で運営していた御幸毛織の直営店を、御幸毛織のタグライン『愛する服を。』を体現できる場にしようというような動きがあったのですが、当時はリテールの業態を引き継いでいて、ちょっと行き詰まっている感じがあるな、と感じていました。
それから1 年ぐらい経った時に、私がリテールの責任者になって、富山さんが商品企画…でしたよね?

富山:そうですね。

金子:富山さんが、商品企画で、尚且つ、サローネ・パルテンツァを一番最初に立ち上げた中心人物だったという事もあり、御幸毛織本体のリブランディングと一緒に、サローネ・パルテンツァを今後どうしていくか?どういう風にしていったらカッコいいか?お客さんにどういった満足を与えられるんだろうか?
などなど、富山さんとそんな話をよくしましたね。
サローネ・パルテンツァが考える…コンセプトというか哲学、これを表現する、『オリジナルモデル』を作りたいね、そんな話がハウスカットの一番の始まりでしたね。

富山:懐かしいですね(笑)。

金子:懐かしいですね。そうなんです。
今思うとあの頃から、あまり変わってないのですが、あの頃の富山さんとの開発メモを見直すと、商品開発のコンセプトがまず「日本の伝統服」を作りたい、でした。
日本人のために作った服、日本人が持つ佇まい、そういった服の力があるものを作りたい!!
あともう一つは「日本の良識服」を作る、でした。
その人が、その服を着た時に持つ佇まい。それは表現力だとか、エレガントであるだとか、マナーだとか、そういったものを表現できるような、そんな服を作りたい!
こういったことが、当時の開発メモに残っています。

小森:ありがとうございます。お二人がこんな服を作りたいんだ!という想いがとても伝わってきますね。日本の良識服を作るという部分は、とてもMCS らしいなと思います。

小森:金子さん、富山さんをはじめ、どのようなチームの皆さんで、オリジナルモデルのハウスカットを作られてきたのですか?

金子:そうですね、開発をスタートさせるにあたって富山さんと色々共有していたのですが、いったいどういう服をお客さんに勧めたいか?そういう富山さんの思いを聞き出すことから始めました。
御幸毛織は生地を作る会社ですから、その御幸の生地の良さを最大限に活かしつつ、『柔らかく体を包むような服』というような抽象的なイメージから始まりました。
自分の以前の経験から、こんな服を作ったらいいな、と思ったことがあったんですけれども、それは、私が以前パンツの工場で働いていた時、大阪の上着工場と取引があったのですが、上着工場の技術部長が、「金子さん、うちらは日本でこういう服を作りたいんだよ。ちょっと袖に腕通して着てみてよ。」と言われ、着させてもらったジャケットがあったのですが、それがあのチェザレ アットリーニ(Cesare Attolini)※だったんですね。
※イタリア、ナポリのサルトリア( テーラー) ブランド。 世界でもっとも人気の高いサルトリアブランドの1つ。

富山:あー!

金子:それを初めて着た時に、腕を通した時に、「何これ!?」って。この着心地、すごくいいな!って感動したんです。
富山さんも、そういう感動するものが作りたい、丸い柔らかい服が作りたい、って感じてくれていたので、その時の感動をどうにかもう一回再現したい!と思いました。
「パルテンツァ」というイタリアの屋号でしたし、そういうイタリアの柔らかいもの作りや服をベンチマークとし、一つのお手本にして、でも、それを日本風にどうやってアレンジしようか?と考えてもの作りを始めたという感じです。

小森:ありがとうございます。ハウスカットの開発は大変だったこともたくさんあったと思うのですが、一番苦労された点は何でしたか?

金子:そうですね、実際に型紙を作って、パターンのモックアップというか、プロトタイプを作りました。
でも、実はミユキソーイングではなくて、外部の既製服の工場にちょっとお願いしたんです。それは何故かと言うと、当時の小樽工場は、マシンメイドといいますか、比較的ミシンに頼って平均的な服を作る、そういうようなもの作りをしていて、どちらかと言うとあまり個性がなかったんです。そんな小樽工場に、こういう服を作りましょうよ、と考えを共有するために、まずは一回外部の工場で作ったものを見せたんです。
外部の既製服の工場というのは、毎年型紙が変わったり、相手が世界の工場だったりするので、わりと競争の中でもまれているんです。でも、御幸の工場はそういった競争がまだ働いてなくて、どちらかと言うとちょっと個性がなかったんですよ。
外部の工場で作ったものを最初に富山さんに見せたんですよね。

富山:うんうん。

金子:あの時に、富山さんも「そう、やっぱりこういう感じですよ。こういうのをうちの工場で作りましょうよ!」というようなことから、まず始まりましたよね。苦労はそこから始まったんですけども。

金子:そのサンプルを工場に送って、型紙を渡して、資材を渡して、作って。服としては形になってくるんですけれど、一番苦労したのは、今までの毛芯とは違うということ。
こういう柔らかい毛芯を立体的なパターンで縫った時にですね、このラペルがものすごく辛(から)く返ってしまう現象が起きてしまったんです。

小森:辛く、というのは上に上がるということですか?

金子:辛く返ってしまうというのは、設定の釦位置よりラペルの返りが下がってしまうということなんですが、そういう問題が続発しまして。
実は当社の吉田社長がこのハウスカット気に入って着ていただいているんですが、「俺の服もこうなっているぞ、どうにかして欲しい」という話がありまして。
何で起こるんだろう?と工場の方とも原因の追及に入ったんです。最初は全然分からなくて、どうしようって困っていたんです。
でも、そのうちに、小樽工場の河村工場長と技術顧問の廣島さんの二人が、この辛く返ってしまう服を修理しながら、毛芯の馴染みがちょっとおかしいね、と気付いたんです。
この毛芯を身頃に縫い付ける躾縫いを今まで通りのやり方で縫うと、不要な余りが出て、それがラペルの返りに影響していることを発見してくれて。
それをじゃあしつけの打ち方を変えよう。それでもう1 着工場で流してみようと、やってみたら、ものの見事に直りました。
今まで工場で当たり前だと思ってた作業が、こういったパターンや毛芯など、ものが変わることによって本当は変えければならないという事に気付いた。これが一番苦労した経験ですね。

小森:ありがとうございます。考案から完成まではどれくらいの期間がかかったんですか。

富山:うーん…どうでしょうか。

小森:今もまだ進化中…?

富山:今もまだ進化中です。

金子:一応、お客さんにこれだったら出せるよね、というふうになるまでに、約2年ぐらいかかりましたね。

富山:うん。丸2年はかかってます。そうですね、2年半ぐらいかもしれないですね。

小森:そんなにかかったのですね。

富山:で、今も進化中で、今度は長崎の工場でも作れるように今計画進めています。

金子:今日私が着ているジャケットは、長崎の工場で今トライアルしているハウスカットの長崎モデルです。

富山:そうですね。

小森:ありがとうございます。
最終的にはどのような将来像を目指しているんですか。

富山:ハウスカットは御幸毛織を代表するモデルナンバーなので、このハウスカットを皮切りに、今はMCS だけのオリジナルモデルですが、どこかのタイミングで、対外的に発信をしていきたいですね。このモデルの良さを色々なブランドにご提案したりだとか、チャレンジをしていきたいです。
あとは、日本だけではなく、海外に向けても、日本のモノづくりの良さっていうのを発信していきたいなと思ってます。

小森:ありがとうございます。

金子:富山さんもこのMCS で、まずお客さんにこのハウスカットを勧めていくということなんですけども、御幸毛織としては、こういうようなモデルを持って世界で戦いたい、日本のスーツを世界に広めたいっていう風に思ってます。
今も実際にいくつかの海外の専門店さんからスーツの引き合いがあるのですが、富山さんと話して、やはり御幸を代表するこの「ハウスカット」というモデルを持って世界に出ていこうということで、今、実際に動いている、という所です。

富山:今までは生地の御幸毛織、だったと思うんですけど、今御幸毛織が目指している「スーツの御幸毛織」へと邁進していきたいと思っています。

小森: ありがとうございます。今後の進化にも目が離せないですね。
金子さん、富山さん、本日はありがとうございました。

富山:ありがとうございました。

金子:ありがとうございました。


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